中国の武将は奥が深い...作者をして、中国武将列伝から洩らしたほどマイナーな武将、でも間違いなく名将である陳慶之が主人公です。多分日本人には最も知られていない時代である南北朝(中国の)中期の南北大戦の一つをかなり京劇の方からも話を持ってきて描いています(京劇になっているので中国では有名)。 この主人公、馬は乗れば跨っているのが精一杯、当然剣も弓も使えない(多分)。しかし天才的な騎兵指揮官であり、兵集団の結節点を見抜き、そこを軽騎兵で突き崩していくことを何度もやってのけます。相手が北方遊牧民系の魏(いわゆる北魏)であり、兵力でも騎兵戦力では明らかに勝っているはずなのに、しかも率いているのも中山王元英、楊大眼と名将であるにも関わらず、『糸を解すように』崩していってしまうのです。 こ!!!いう縦のストーリーに加えて、男装の少女の悲恋という横のストーリーが加わっていますが、この本に限っては縦が圧倒的に強い流れです。とにかく血と汗と怒号の激しい戦いが主です。 しかもこの本が面白いのは、圧倒的な兵力と武勇もより優れた知恵と団結の前には無力である、という日本人好みな展開をしつつ、それも淮河があってのことで、そういう戦術レベルでの絡み合う多彩な要素のもたらす効果をきっちりと描写に反映している所です。 作者のひいきの方は勿論、中国の戦争史に興味のある方にはかなりそそられるものです(まあ、恐らく文庫になりますからそれまで待ってもいいでしょうが。本は逃げませんから)。
「白い騎兵隊」を率いる若き天才将軍・陳慶之と、梁征服を目論む勇将、中山王・元英。80万の軍勢を陳慶之はいかに撃退するのか? 6世紀初頭、南北朝時代の中国を揺るがした屈指の血戦を描く歴史小説。98年刊の再刊。