想像力豊かに描いた春秋時代の物語 宮城谷昌光は中国古代に関する豊富で学問的な知識も持ちながらも、彼の小説は単に考古学的で電気的な興味を満たすものではない。重耳という以前の作品で描いた主人公の周辺人物の物語なのだから、細かな事実の語りが豊かなのは当然だとしても、伝説的な人物介推との偶然の出会いや、この本の主人公・士会の妻が本当は周の王女かもしれないという空想を差し挟むあたりなど、歴史的な事実に隠れる予想外の人生の不思議さというものまで語っている。彼の物語がおおむね非常に真面目な思想で貫かれていながらも堅苦しいものにならずに、おおらかな雰囲気まで漂わせているのは、そうしたエピソードによるところが大きいと思う。 士会という人が主人公でその実直な生き様には感歎させられるが、彼以外の様々な登場人物にも作者による人物評が添えられており、読者は多くの人物の生き方を比較しつつ味わえる。おかげで、人の人生を生きるという小説が本来もっている醍醐味を存分に楽しめることが出来る。文字もほどよい大きさで読みやすい。