華麗なる貴族の才女の一生主人公は謝道蘊(しゃどううん)という女性。舞台は五胡十六国時代の東晋。貴族社会華やかなりしころである。謝道蘊を知っている人はあまりいないかもしれないが、彼女が関わった人物はこの時代の有名人ばかりだ。夫はかの王羲之の息子。叔父は謝安、弟は謝玄。そう、ヒ水の戰いの立役者だ。彼女は東晋最大の危機から、その滅亡へと突き進む激動の時代を生き抜いた。しかし、物語は戦争歴史物というわけではなく、女性の目を通して見た貴族社会の話といったところだ。謝道蘊自身は六朝随一の才女であり清談にかけては天才的だった人物である。南朝貴族社会の華やかさと儚さを同時に体験することができるだろう。
婚礼の宵。少女はひとり、拭い去れぬ不安と戦っていた。「柳絮の才」を謳われた娘、謝道蘊と、書聖・王羲之の一族との、申し分のない縁談。案ずることは何もなく、平穏で幸せな日々を送るはずだった道蘊の半生はしかし、その夜を境に戦乱の世に呑まれていく。匈奴襲来、ヒ水の戦い、五斗米道の叛乱―内憂外患に揺れる東晋から南北朝へ。家を守り夫を支え、ついには白刃をふるって家族と自身を守った、才女の生涯。