作劇技術の高さに瞠目 物語の時代設定は、隋王朝の勃興からその滅亡まで。主人公である花木蘭は、年老いた父の代わりに、煬帝の起こした第一次高句麗討伐軍に女性の身でありながら、男装して従軍し、その後、衰退していく隋王朝に襲い掛かる様々な反乱軍との激戦に遭遇する。そこでの男装の麗人の活躍の痛快な活躍というのが、本書の見所だ。 筆者は、漢文テイストを感じさせる引き締まった硬質の文体で、種々の歴史書・漢詩を自在に引用し、この時代の歴史・文化、多種多様な人々、暴君・君側の奸・野心家・誠忠清廉の士そして、武略に秀でた英雄たちの姿を活写する。特に、合戦シーンは臨場感を感じさせ、迫力がある。長年、エンターテイメントを書き続けた人だけあって物語の緊張と緩和の絶妙なバランス、歴史的事実に作家的想像を加える作劇技術の高さには瞠目せしむるものがある。叙述も整理されており、きびきびと面白い話を読ませてくれる。 本書はまさに、歴史好きには堪えられない一作だろう。
あわく血の色を透かした白い頬、わずかに褐色をおびた大きな瞳―ひとりの美少女が暴君・煬帝の親征に従事していた。病父に代わって甲冑に身を包んだ、少年兵として。その名を花木蘭。北に高句麗を征し、南に賊軍を討つ。不敗の名将・張須陀の片腕として万里の戦野にかけるも、大隋帝国の命運は徐々に翳りはじめ…。時を越え民衆に愛された男装の佳人を、落日の隋王朝とともに描きだした中国歴史長篇。