一気に読めました。フランスのこの時代については、殆ど知識がなかったので、それなりに面白かった。歴史知識は、えてして国ごとに別々にしか頭に入っていないので、意外に、別々の国々を横ざしにした「同時代性」を把握することは難しい。歴史小説は、ときとして、そのような同時代性についての知見を与えてくれる。この小説でも、北仏ジャックリーの乱と、北伊チョンピの乱って、言われてみれば、20年しか違わないんだなぁ、と当時が立体的に把握できて、ちょっと嬉しくなった。 歴史小説を読むと、「実際はどうだったのか」と思うことになるが、本文庫の場合、あとがきに本ネタが記載されていて、便利。そこで驚いたのは、この、高校生の教科書にも出てくる有名な農民反乱が、実はジョン・フロワサールの年代記の1ページ程度の記述だけが、資料の全てらしい点。こうしたかすかなかけらのような記述を、日本の高校教科書にも載せるに至ったのは、イングランドのワットタイラーの乱や、イタリアのチョンピの乱、ボヘミアの農民戦争など、この時代に起った一連の乱と関連をもたせる「史学理論」のなせるわざだろうか。いづれにしても、フロアサールの年代記の記述から、1冊の小説を構築した作者の力量は、この作者の著作を読むのははじめてなのだが、歴史小説家として「本物」を感じた。