面白かった藤本ひとみの歴史小説作品において身分出自などの「自分ではどうしようもないもの」に抗おうとする葛藤と挑戦というのが、鮮烈に浮かび上がってくるパターンが多いが、この作品のノストラダムスも「カトリックに改宗したユダヤ人」という出自を背負っている。改宗しても受け入れてもらえないユダヤ人というもの、当時の預言者の実態、ノストラダムスの一人の人間としての顔など、面白かった。ただ、「預言者ノストラダムス」から、こちらに改題されてよかったと思うのはやはり全体としては、カトリーヌ・ド・メディシスが主人公だからである。王妃カトリーヌが夫に見捨てられて孤立無援の状態を、いかに切り開くかを読み進めていくと、歴史上の彼女のイメージが根本から覆されていく。絶大な権力者で、血まみれの悪女で、愛のない母親。なにゆえにそのような生涯を選択しなければならなかったのか、なんだか理解できてしまう。そのへんの感情描写のたたみかけかたが、この作者は上手い。当時の宮廷作法や文化がうまく織り込まれることによって愛人ディアーヌとの戦いの描写なども、なかなか面白かった。
ノストラダムスは真の預言者だったのか? 権力を握るため、伝説の預言者を信頼し手を組んだ王妃の波乱の生涯。フランス王朝の頂点を極めようとした人間達が到達した栄光とは?
フィレンツェの富豪メディチ家のカトリーヌは、フランス王太子アンリ二世に輿入れしたものの、夫は寵妾ディアヌの虜。商家の娘と蔑まれ、子供にも恵まれず、宮廷で影の薄い存在だった。自分を守り、権力を握ろうとするカトリーヌは、預言者として評判になったノストラダムスに手をのばす。権謀術数の宮廷大河ロマン