古今伝授と関ヶ原の戦い・・・文は武より強し古今伝授とは平安時代に始まり、古今和歌集の解釈を秘伝として弟子に伝えた歌学の家元制度のようなものである。室町時代に岐阜県大和町周辺の郡上郡を治めていた東常縁(とうのつねより)が古今伝授を集大成したことにちなみその大和町に、現在町おこしの一環として、「古今伝授の里」が作られている。その一角にある和歌文学館に行ったとき、私は安部龍太郎著『関ヶ原連判状』が置いてあるのを見つけた。 訓古学的古今伝授という歌道がなぜ天下分け目の関ヶ原に関係したのか? 戦国時代にその秘伝を受け継いたのは歌人でもある大名細川幽斎ただ一人であるが、細川幽斎の知らざれる側面とは?私が『関ヶ原連判状』を読んだきっかけはそんな謎解きからであった。結果は面白くて、一気呵成に長い小説を読んでしまった。それは古今伝授を受けた細川幽斎がそれを種に朝廷外交を繰り広げながら、石田三成に立ち向かい、関ヶ原の戦いを生き抜く新解釈の時代小説である。私は大いに満足感を持って読み終わり、それ以降、安部龍太郎のファンになった。関ヶ原の戦いを経て徳川の代に至る歴史の大きな激動期に、細川家は豊臣恩顧の大名でありながら才覚と行動力により、取り潰しにあわず家を守った。今日においてもその「生き残り策やしたたかな行動様式」は学ぶべき点が多いかもしれない。