 松田 十刻 発売日:2002/08 価格  学校では教えないこと 東条に関しては、学校でも詳しくは教えず、タブー視されている感すらある。しかし、日本の近代史を知る上で、決して目をそむけることなく、冷静に受け止める必要があろう。 時の指導者として、日本を戦争に、果ては敗戦に導いた東条だが、その考え方や背景について、左右中立的な視点からよく整理されている。戦後60年をむかえた今日、これをどう評価すべきか、よくよく考えさせられる一冊である。
鈴なりの勲章を左胸にかかげ、胸を張ったちょび髭の陸軍軍人の写真。その表情はむしろ柔和で、<カミソリ>の異名を取った男とは思えない雰囲気を漂わせている。東条英機――太平洋戦争開戦時の首相であり、戦後はA級戦犯として絞首刑になった彼の生涯を描いた本書では、そんな写真を装丁に使った。
「冷酷・悪辣な侵略者」のように見られがちな東条だが、それは実際の人間像とは程遠いものだ。日本陸軍の一軍人として、何より天皇の忠実な臣下として自らを任じていた東条は、むしろ40代までは軍部でも地味な存在であった。それが54歳にして陸軍次官に就任するや、まるで何かに憑かれたように権力の中枢を占め、対外強硬策を支持し始める。やがて緊迫する国際情勢のなか、首相として国家の命運を担った彼は、日本を最悪の事態へと導くだけの役割を演じてしまう。
戦時日本のリーダーという運命を背負った男の「光と闇」を、克明に描き出した力作小説。
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